ジャコメッテイのモデル・哲学者 矢内原伊作


ジャコメッテイのモデル・哲学者 矢内原伊作

カミュ、サルトルの実存主義を日本に紹介し、ジャコメッテイの作品モデルを幾度となく努めた一人の日本人がいます。ご紹介します「ジャコメッテイのモデル・哲学者 矢内原伊作」です。

「その生い立ちと就学」

出典元:http://www.sankei.com/images/news/170625/lif1706250018-p5.jpg

出生情報:1918年(大正7年)52日愛媛県生まれ。

没年情報:1989年(平成元年)816日没。享年71歳。

東大総長をつとめた経済学者 矢内原忠雄の長男として愛媛県に生まれました。名前は聖書のイサクに因んで名づけられたと言われています。その後、東京府立一中、第一高等学校理科を経て、1941京都帝国大学文学部哲学科卒業し、1942年海軍予備学生として従軍します1945年台湾高雄で終戦を迎え1946帰国し法政大学講師の職に就きます。また復員後は、後にフランス文学者として活躍する宇佐美英治と第一高等学校で旧知であったこともあり、サルトルカミュに惹かれ本格的に実存主義の立場で哲学を研究し始めます。

 

 

「矢内原伊作の学術的業績」

「宇佐美英治」出典元:http://www.msz.co.jp/_cover/back/04815_big.jpg

戦後、昭和22宇佐見英治らと『同時代』を創刊します。同22CNRS(フランス国立科学研究所)の招聘により渡仏し、31年に帰国。この間、ジャコメッティと交遊し、その作品のモデルともなったほか、ミロ、ザッキン、シャガールなど美術作家たち都の知己を得ます。帰国後、1951年大阪大学文学部助教授、1966年同志社大学文学部助教授、同年学習院大学助教授として教鞭をとり、1970年昭和45年より法政大学文学部哲学科教授となります。この間サルトル、カミュの実存主義哲学を紹介する一方、西欧の作家たちとの交遊と独自の視点にもとづく芸術評論を数多く行い、このジャンルにおける評論家としての存在感を確たるものとしていきました。

「フランスの実存主義」

J.P.サルトル」出典元:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/ef/Sartre_1967_crop.jpg/200px-Sartre_1967_crop.jpg

しかつめらしい話になりますが、実存主義とは人間の実存を哲学の中心におく思想的立場の事と言われています。合理主義・実証主義による客観的ないし観念的人間把握、近代の科学技術による人間の自己喪失などを批判し、20世紀、特に第二次大戦後に文学・芸術を含む思想運動として展開されました。19世紀中から後半にかけてのキルケゴールニーチェらに始まり、ドイツのヤスパース・ハイデガー、フランスのマルセル・サルトルらが代表者です。第ニ次世界大戦後になると,この実存に根ざした思想がサルトルやメルロ=ボンテイといったフランスの若い哲学的世代によって採りあげ直され「実存主義」と呼ばれる思想運動を生むことになります。特に、講演「実存主義はヒューマニズムであるか」(1948年)のなかで「人間は自由という刑に処せられている」と言いきって,無神論的実存主義を標榜したサルトルは,実存主義を哲学の額域に限定せず,文学や政治の領域にまで拡張し独自の議論を展開しました。彼の名は知識人の代表として全世界的なものとなり,それと平行して実存主義は,第2次世界大戦後の政治状況下で,資本主義かマルクス主義かという米ソ対立構図のもとで,マルクス主義への対抗イデオロギーとして機能していきました。しかし1950年代を通じて次第に退潮していき,構造主義にとって代わられることになりました

 

 

「ジャコメッテイとの出会い」

出典元:http://www.art-it.asia/p/sfztpm/pc8LkIUsuPTOq2CHX5Z7/5.jpg

195410月よりフランス国立科学研究センター研究員としてフランスに滞在していた矢内原は、195511月にジャコメッティとパリのカフェで最初の出会いを果たし、それ以後、親交を重ねました。帰国の直前1956、モンパルナスのカフェで矢内原がジャコメッティに会っているに、ジャコメッティはテーブルで矢内原の顔をデッサンしていたのですが、突然「アトリエで君のデッサンをしたい。名残惜しいから記念に君の顔を書こう」と言いだしたと言います。ジャコメッティは前から「君の顔を書こう」と言っていたが、矢内原はあまり当てにしていなかったそうで、軽い気持で記念になるだろうと思ってポーズを引き受けますこのことが契機になり日本帰国直前の195610月より2ヵ月半制作作品のモデルをつとめますが、その後もモデルとして乞われ、すべてジャコメッティによる渡航費、滞在費負担で57年、59年、60年、61年の毎夏をパリで過ごします。その間、少なくともモデルをつとめていた230日間は、寝る間とわずかな例外をのぞいて矢内原はジャコメッティと行動をともにしています。

「ジャコメッティとともに」出典元:https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/418Y3m6EnuL._SL500_.jpg

このようにモデルになる期間が長じた背景には特別な状況がありそうです。矢内原の著作「ジャコメッティとともに」の中の記述内容によると、「ジャコメッティはアトリエでヤナイハラの肖像を描き始めるが、途中でどう描いたらいいか、分からなくなり苦闘します。思うような肖像ができず、絶望し、身をよじって悔しがる毎日だった。剛毅なはずの芸術家が、ある日、思うように描けずひっそり泣いているのを見て、矢内原は驚いた。彼は思わぬ事態に、モデルを続けるのを断るわけにいかず、飛行機の搭乗券を幾度もキャンセルした」とあります。こうしたモデル期間が通算約230日も続くことになりますが、その背景にある大切な要素について旧知の友人である宇佐美英治の指摘を引用してみます。「矢内原こそがジャコメッティと最も自由に、平等に意見を交わすことができたモデルであり、相互に向かい合うことのできる人物であったこと、相互に響きあう関係だったことが、その理由だ」

「裸婦小立像・神奈川県立近代美術館所蔵」出典元:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2013/sculptures_sekal/img/w04.jpg

矢内原をモデルにした作品は、今まで余り知られていませんでしたが、近年アルベルト・アネット・ジャコメッティ財団の協力もあり、日本で数多くの作品展が開催される機会が増え、過去の経緯も含め矢内原とジャコメッティの関係にも注目が集まりました。神奈川県立近代美術館等にも代表作が所蔵されるとともに、「ジャコメッティとともに」をはじめとする、ジャコメッティと矢内原の交流を自ら著述した著作も数多くあります。その一方で、現在、矢内原の著作内に時系列の誤記載、解釈の違いなどを指摘する財団側の申し出があり、前述する筑摩書房刊の「ジャコメッティとともに」は廃刊に追い込まれています。また、なぜ矢内原が作品のモデルでならなければならなかったのか、ジャコメッティの妻アネットの思いも存在するようで、現在もジャコメッティ周辺の美術ジャーナリストには事欠かない話題があふれているようです。

「ジャコメッテイの業績」

出典元:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/ca/CHF100_8_front.jpg

スイスに生まれフランスで活躍したアルベルト・ジャコメッティ(1901-1966年)は、20世紀のヨーロッパにおける最も重要な彫刻家のひとりです。画家の父の影響もあってか、10代の初め頃から静物や家族をモデルに油絵や彫刻を試みるようになります。また、過去の巨匠たちによる作品の版画に基づく模写も行い、その中には日本の浮世絵も含まれていました。192220歳でパリに出たジャコメッティは、当時新しい芸術として認められつつあったキュビスムをはじめ、アンリ・ローランスやコンスタンティン・ブランクーシといった同時代の芸術家、さらにルーヴル美術館で目にした古代エジプトやエトルリア美術、民俗学博物館で出会ったアフリカやオセアニア彫刻の造形からも影響を受けました。

「歩く男Ⅰ」出典元:http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/giacometti2017/img/walkman.jpg

時代の先鋭的な動きを存分に吸収したジャコメッティは、1935年からモデルに向き合いつつ独自のスタイルの創出へと歩み出します。それは身体を線のように長く引き伸ばした、まったく新たな彫刻でした。ジャコメッティは、見ることと造ることのあいだの葛藤の先に、虚飾を取り去った人間の本質に迫ろうとします。その特異な造形が実存主義や現象学の文脈でも評価されたことは、彼の彫刻が同時代の精神に呼応した証だといえます。またジャコメッティは、日本人哲学者である矢内原伊作(19181989年)と交流したことでも知られ、矢内原をモデルとした制作は、ジャコメッティに多大な刺激を与えました。

「犬」出典元:http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/giacometti2017/img/a-dog.jpg

このような変遷をしたジャコメッティの彫刻には、豊かなヴァリエーションがあります。キュビスムやシュルレアリスムなどに影響を受けた第二次世界大戦前の試み、モデルを前にして制作された彫像、わずか数センチの小さな人物像や複数の人物を組み合わせた群像、そして、細長い人物像まで、あらゆる時代の思想と結実させた制作活動は苦悩の果ての造形美という存在感で見る者の目を今でも見張らせるものがあります。

「矢内原伊作略歴」

191852日愛媛県生まれ。

1941京都大学文学部哲学科卒業。1942海軍予備学生として従軍。

1945台湾高雄で終戦を迎える。1946年帰国。法政大学講師となる。

1947学習院大学助教授1951大阪大学文学部助教授

1954フランス国立科学教育センター(CNRS)から招かれ、渡仏。

195610-12月、帰国を前にジャコメッティのモデルをつづける。

1957596061年の毎夏、ジャコメッティのモデルをつとめるためにパリですごす。

1966同支社大学文学部教授。19681-4月、ブリティッシュ・コロンビア大学客員教授

1970法政大学文学部教授。19893法政大学教授を退職。816日死去。

 

 

「矢内原伊作の著作物」

出典元:https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/A1D-dxjK8%2BL.jpg

「ジャコメッティ・エクリ」2017年矢内原伊作訳・みすず書房新装版刊行

書価:6912円(アマゾン価格)

オンラインショッピング:https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3-%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%83%AA-%E6%96%B0%E8%A3%85%E7%89%88-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3/dp/4622086220/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1501385790&sr=1-2&keywords=%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3+%E7%9F%A2%E5%86%85%E5%8E%9F%E4%BC%8A%E4%BD%9C

出典元:https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41dTXg5kWcL.jpg

「話しながら考える」1986年矢内原伊作著・みすず書房刊行

書価:1000円~(アマゾン価格)

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「矢内原伊作とジャコメッテイの関連著作物」

出典元:http://www.msz.co.jp/_cover/front/04414_big.jpg

「ジャコメッテイ」1996年矢内原伊作著・みすず書房刊行

書価:5832

オンラインショッピング:http://www.msz.co.jp/book/detail/04414.html

参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2%E5%86%85%E5%8E%9F%E4%BC%8A%E4%BD%9C
参考サイト:http://note.masm.jp/%BC%C2%C2%B8%BC%E7%B5%C1/
参考サイト:http://www.msz.co.jp/news/topics/07508.html
参考サイト:http://www.dept.edu.waseda.ac.jp/foreign/russian/kawasaki/kougi121.htm
参考サイト:http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/giacometti2017/
参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3
参考サイト:http://www.nact.jp/exhibition_special/2017/giacometti2017/
参考サイト:http://www.art-it.asia/u/sfztpm/pc8LkIUsuPTOq2CHX5Z7/
参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%EF%BC%9D%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%AB
参考サイト:http://www.msz.co.jp/book/detail/04815.html
参考サイト:http://www.sankei.com/life/news/170625/lif1706250018-n4.html
参考サイト:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2013/sculptures_sekal/
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